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東京地方裁判所 平成11年(ワ)18537号 中間判決

原告 東洋熱工業株式会社

右代表者代表取締役 野末尚

右訴訟代理人弁護士 塩川哲穂

被告 エイチ・エム・ヴィ・ジャパン株式会社

右代表者代表取締役 ポール・デゼルスキー

右訴訟代理人弁護士 内藤潤

右 同 渡邉泰秀

右 同 浅妻敬

主文

一  被告の本案前の抗弁を却下する。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金二九四〇万円及びこれに対する平成一一年一月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要等

一  事案の概要

1  本件は、被告が入居する新築ビルの空調設備関連工事に関して、その一部を被告から請け負った原告が、その請負代金を請求している事案である。

2  被告は、本案前の抗弁として、原告が請求している請負契約には仲裁合意があり、それによれば、本件請求は建設業法による建設工事紛争審査会においてその当否が判断されるべきであるから、本件請求は却下されるべきであると主張している。

二  当事者間に争いのない事実関係等

当事者間に争いのない事実関係及び証拠上容易に認定できる事実関係は以下のとおりである(以下「前提事実」という。記号等は証拠の番号である。)。

1  当事者(争いのない事実)

(一) 原告は、空調工事等を業とする会社である。

(二) 被告は、コンパクトディスク・ビデオの販売等を業とする会社であり、平成一〇年六月に竣工した東京都渋谷区宇田川町二四-一所在の高木ビルディング(七階建て、以下「高木ビル」という。)の一階から五階を所有者から一括賃借し、「HMV-SHIBUYA」の名称でコンパクトディスク・ビデオ等の販売店(以下「HMV渋谷店」という。)を営んでいる。

2  本体工事(甲一、六のー、八、一一、弁論の全趣旨)

原告は、平成九年一〇月ころ、訴外東急設備株式会社(以下「東急設備」という。)から、高木ビル新築工事における大型室外機の設置工事と配管設備工事の発注を受け、高木ビル一階ないし五階部分には四二馬力の室外機を、六、七階部分には、当該賃借人からの要望を受け、二〇馬力(一〇馬力二台)の増強を加えた室外機設置工事及びこれに伴う配管工事を実施した(以下「本件本体工事」という。)。

原告は、東急設備から右請負代金を受領した。

3  テナント工事(争いのない事実)

原告と被告は、平成一〇年二月ころ、高木ビルディング新築工事テナント設備工事(一階から五階)に関し、代金四二四二万円、着手日を同年三月一五日、完成日を同年五月三一日とする契約を、書面(契約書、甲五、乙一)を作成して締結した(以下「本件テナント空調工事」という。)。

右契約書中、第三四条には、「この契約について当事者間に紛争が生じたときは、当事者の双方または一方から相手方の承認する第三者を選んでこれにその解決を依頼するか、または契約書に定める建設業法による建設工事紛争審査会(以下「審査会」という。)の斡旋または調停によってその解決を図る」との文言がある。

原告は、平成一〇年八月三一日までに、本件テナント空調工事の代金全額の支払を受けた。

4  開店記念のオープニングセレモニー(争いのない事実)

被告は、平成一〇年七月一日、HMV渋谷店において、開店記念のオープニングセレモニーを行ったところ、客が殺到し、二階が酸欠状態となる状況となった。

5  空調設備増強工事(争いのない事実)

被告は、平成一〇年七月二日、原告の他、東急設備、訴外六興電気株式会社(以下「六興電気」という。)と打ち合わせて、右事態に照らして、仮設クーラー、エアーカーテン及び仮設換気設備を設置する等の仮設対応をするとともに、一、二階については空調設備の増強工事を新たに実施することを決定した。

被告は、原告に右仮設対応工事等及び一、二階部分の空調設備増強工事を発注した(以下「本件空調設備増強工事」という。)。その結果、原告は、本件空調設備増強工事については平成一〇年七月一一日に着手し、一階部分に三四馬力の、二階部分に四二馬力の室外機を設置して同月二〇日に完工させて引き渡し、仮設対応工事については同月三日に着手し、本件空調設備増強工事完工後の同月二二日に仮設物を撤去した。

二  争点

1  本件空調設備増強工事は、仲裁合意のある本件テナント空調工事に含まれるものか(一体をなすものか、別途工事ではあるが一体と考えられるか)、否か。

2  本件空調設備増強工事には、別途、仲裁合意があったか否か。

三  争点に関する被告の主張(抗弁)

1  争点1(一体性)に関して

本件空調設備増強工事は、仲裁合意のある本件テナント空調工事に含まれる。

(一) 担保責任の履行関係

本件テナント空調工事は、原告と被告間の、高木ビルの空調設計契約であって、原告が被告の要望を的確に取り入れて空調設備を設定すべきであったのに、不十分な設計施工しかしていない。本件空調設備増強工事は、本件テナント空調工事の担保責任の履行という関係にある。

(1)  高木ビルの空調設備について、被告は原告に設計、施工を委ねていた。

(2)  HMV渋谷店の一、二階が興行場利用をも目的とすることを原告に説明しており、被告の新宿店(高島屋店)を二〇パーセント上回る空調能力が合意内容とされていたにもかかわらず、不十分であった。

(二) 相殺による消滅関係

本件空調設備増強工事は、本件テナント空調工事と別個のものであったとしても、その代金債務は、本件テナント空調工事の不十分さから生じた担保責任(損害賠償請求権)と相殺により消滅している。

2  争点2(合意の存在)に関して

本件空調設備増強工事においては、平成一一年三月五日、原告と被告の各担当者の他、空調関連業者とで解決方法を話し合ったが、その際、被告から、本件テナント空調工事の仲裁合意にしたがって建設工事紛争審査会による仲裁等の方法により裁判外で最終的に解決することを提案し、他の業者が賛成する中で、原告は格別異議を述べなかった。

右事情からすれば、本件空調設備増強工事においても、仲裁合意があったと認められる。

四  争点に関する原告の主張

1  争点1(一体性)に関して

本件空調設備増強工事は、仲裁合意のある本件テナント空調工事とは全く別個のものである。

(一) 担保責任の履行関係の不存在

(1)  本件テナント空調工事は、高木ビル全体の空調設計工事である本件本体工事とは、全く別の工事である。

本件本体工事は、施主(建物所有者)が、賃借人の意向を聞きながら建物の空調設備を整える工事であって、施主と訴外東急建設株式会社(元請)、東急設備、そして、東急設備と原告との契約関係による。

これに対して、本件テナント空調工事は、賃借人の意向を内装等に反映させるために、賃借人が直接業者と締結する工事であって、原告は被告から発注を受けているし、平成一〇年八月三一日に代金全額を受領している。

本件テナント空調工事は、本件本体工事を前提とし、それにより定まった室外機の能力等をテナントの意向に応じていかに配分するかという内容に過ぎない。原告は、建物全体の空調設備については、被告と契約をしていない。

(2)  原告は、HMV渋谷店の一、二階が興行場利用をも目的とするとの説明を受けたことはなく、被告の新宿店(高島屋店)を二〇パーセント上回る空調能力を合意内容としたこともない。

(二) 相殺による消滅関係

本件テナント空調工事に不十分さはないから、担保責任(損害賠償請求権)も理由がない。

2  争点2(合意の存在)に関して

本件空調設備増強工事において、原告と被告は、それぞれ交渉したが、仲裁の合意はない。

第三当裁判所の判断

一  争点1(契約の一体性)について

1  前提事実によれば、本件本体工事が大型室外機の設置、配管に関する、原告と東急設備との契約関係に基づく工事であるのに対し、本件テナント空調工事が、大型室外機の設置を前提とした室内機の設置を主とする、原告と被告との契約関係に基づく工事であることがわかる。

このことは、東急設備が、高木ビル六、七階の賃借人からの希望を入れて、本件本体工事において、一〇馬力の室外機二台を増設していることからも(前提事実)、証拠上(甲一、一〇、一九、一三の一ないし三)、本件本体工事において、空調室外機の設置、配管を行い、本件テナント空調工事において、室内機の取付等を行うこととし、室外機の馬力等において空調能力を試算していることからも明らかである。

これに対し、本件空調設備増強工事は、前提事実によれば、主に、室外機の能力につき、一階部分に三四馬力、二階部分に四二馬力の室外機を増設し、当初の四二馬力(二階)ないし三八馬力(一階)から、それぞれ二倍程度まで増強するものである。

そうすると、本件空調設備増強工事は、室内空調工事である本件テナント空調工事とは関連性がないということができる。

2  そして、前提事実によれば、高木ビル全体の空調工事は、東急設備が施主から請け負い、原告が下請けをしたものであって、契約締結過程において、原告が東急設備とともに、当然被告の意向を確認していることが認められるものの(甲一)、原告と被告とが契約関係にないことは明らかである。

3  そうすると、被告が主張する、HMV渋谷店の空調設備の能力不足という点は、専ら室外機の能力に関する問題といえるから、室内機等を主に扱っている本件テナント空調工事とは関連性がなく、その瑕疵担保責任の問題とはならない。

4  相殺の関連性をいう点は、右のとおり、契約上の関連性がないから理由がない。

二  争点2(仲裁合意の存在)について

1  被告は、原告と被告の各担当者の他、空調関連業者との間で、本件空調設備増強工事の解決方法を話し合った際、本件テナント空調工事と同様、建設工事紛争審査会による仲裁等の方法により裁判外で解決することを提案し、原告が異議を述べなかったことをもって、仲裁合意が成立したと主張するが、右事実関係があるものと仮定しても、仲裁合意が成立したと認めることはできない。

2  すなわち、仲裁の合意が認められると、訴えが不適法として却下されることになるから、その認定には慎重であるべきであり、右事情のように、仲裁契約の申出に対して積極的な賛意を示すことなく、集団の中でただ単に異議を述べなかったという一事をもって、仲裁の合意があったとすることはできないというべきである。

第四結論

以上のとおり、本件請求について、仲裁合意により却下されるべきとする被告の本案前の主張は、理由がないから、中間判決として、主文のとおり判決する。

(裁判官 足立正佳)

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